『Works 186|あなたの会社の人的資本経営大丈夫ですか?』
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読了
Works186号 - w_186.pdf
Highlights & Notes
> 昨今、「人的資本経営」という言葉ももてはや されていますが、個人的には注意が必要だと感じ ています。経済産業省が2022年に発表した「人 材版伊藤レポート2.0」は、会社で人を育てよう とするなど、一見するともっともなことを指摘し ているように見えます。ところが、その内容を読 み進めると、今や労働者全体の4割近くなった非 正規労働者への視点を欠いており、「新時代の『日 本的経営』」への反省もなく、この30年間のやり 方が雇用にもたらした負の影響についての考察は 見受けられませんでした。経営層の皆さんには、 まずは過去の失敗を直視するところから出発し、 真の意味で労働者を大事にする経営を目指してほ しいと切に願います。
> 佐々木:長く人事にいた私からすると、 2020年のレポートは「当たり前のこと を書いているな」という印象でした。た だ、事業経験を経て思うのが、人事に は会社の枠を超えた「共通言語」があ り、これが人事経験者以外からはわか りにくい世界でもあるということ。伊藤 レポートは、その翻訳や通訳をするた めのヒントという意味で価値があったと 思いました。
> 鹿島:伊藤レポートによって、経営戦 略と連動した人材戦略を進めていくこ との重要性を国全体にメッセージされ たことは、やはりインパクトがあったと 思います。ただ、このレポートがあたか もバイブルや教科書のように捉えられ ているケースもあります。たとえば、「伊 藤レポートのこの部分は御社のどの施 策が該当しますか」などと質問されるこ とがあり、少し違和感はあります。各社 の状況に応じて、経営戦略・人材戦略 は異なるものとなりますし、策定の際に 同レポートをどれだけ参考にするのかも 各社それぞれ違うと思います。
> 中根:人事部門はプ ラットフォーマーで あろう、コネクター であろうといってい ます。ただ制度を作 るのではなく、ハー ドとソフト両方で経 営戦略を実現する構 造を作るのが役割だ と。
> 小野:人事部門のこれからは、一歩 踏み出して経営をデザインする方向へ もっとシフトしていく必要があると思 います。経営戦略と人材戦略の連動と いうのは、分離しているものを結びつ ける話ではなく、その会社のあり方を どうデザインするのか、どう変革する のかを議論すること。そしてそれを推 進できる状態を作ることだと思ってい ます。
> 「真っ暗なトンネルを手探りで歩いているような 状態」だった当時の青井氏にとって、唯一のより どころは「世の中の働き手が『こうあってほしい』 と思える働き方はどのようなものか」という本質 的な問いだった。自問自答の結果、「一人ひとり がやりがいを持って働き、世界や社会に貢献する」 ことに行きついた。 「私欲ではなく、みんなが共有できる普遍的な価 値を基盤に行動や戦略を展開すれば、自分なりに 納得して取り組める。それがすごく大事でした」
> 石井氏は人事の役割を「『自律的な組織を作る』 という経営戦略が提示されたとき、自律的な組織 とはどういう状態かを因数分解し、やるべきこと を明確にする」ことだと説明する。
> 田中氏はビジョン、ミッション、バリューの 定義などさまざまな改革に取り組んだが、社 内への浸透は今ひとつだった。こうしたなかで 次第に「自ら行動できる社員が育たないのは、 判断に必要な情報を持っていないためではないか」 と気づく。 そこで2019年、全社員に社用のiPhoneを配布し、 Slackを導入して経営情報も含めてほぼすべての社 内情報を公開した。経営会議をZoomで公開し、関 心のある社員は誰でも参加できるようにした。
> とはいえ、最初から積極的に参加する社員は少 なかった。田中氏自ら毎日プライベートなことも 含めて投稿し、参加のハードルを下げた。今でも 田中氏は毎朝1時間ほどかけてSlackのすべての 投稿に目を通して、「これは」と思うものには「社 長必読」「社長賞」というスタンプを押す。スタン プのついた投稿はほかの社員の注目を集め、コメ ントも多数寄せられる。 「前向きなフィードバックによって人を褒め合う 文化が醸成され、『行動を起こすのはいいことだ』 という認識が定着する。社員の『やりたい』気持 ちを『やります』という実際の行動へと変えるの です」
> 「風土は創業の精神など、組織がもともと持つ『土 壌』に近いですが、文化は社員に情報という水を 与え、成功体験を積ませることで変わる。情報改 革が結果的にカルチャーを変え、組織にも成果を もたらしました」(田中氏)
> テーマは停滞している職場の活性化や製造現場 のコストダウン、AIの活用策など多岐にわたり、 なかには「禁煙とダイエット」といったものもある。 共通するのは「身の丈より少し高い難度の課題に 取り組んでもらう」ことだ。 テーマとゴールの設定、チームの人選は社長と 役員が担う。特にSlackの投稿をつぶさに見てい る田中氏は、社員の志向や隠れた能力などの「デー タベース」が頭のなかにできており、人選の大き な武器になっている。メンバーは全国から集めら れ、年齢や職種、フルタイムやパートなどの属性 もバラバラだ。若手がリーダーとなってミドルシ ニアのメンバーをまとめることも多い。 「強すぎるリーダーがほかの4人に指示するので は良い結果は出ないし、中高年男性だけなど同質 性の高いチームもうまくいかない。女性や未知の 原石である若手らと組み合わせて、ダイバーシティ を確保するのが成功の秘訣です」(田中氏)
> 「現場とトップが直接やり取りするようになると、 報連相を仲介する『管理』の仕事は減っていく。な らば管理職はさらに上の視座を持ち、会社の未来 を考え『夢を語る』役割を果たすべきです」(田中氏)
> タスクを通じて将来の役員候補となる人材が現 れると、年次に関係なく「准役員」として抜擢し、 経営者候補として育成する。タスクチームの報告 会を聞くのも准役員だ。このときも、別室にいる 社長や役員がインカムを通じて、「今の内容は面白 いから掘り下げて」「雑談で和ませよう」といった 指示を与え、准役員の「聴く力」を鍛える。准役 員を役員にすることで、女性や若手の登用も急速 に進みつつある。田中氏はこう話す。「タスクを通 じて身の丈よりも上の課題に挑戦できる人材が育 ち、そのなかからさらに経営を担う人材が生まれ る。それによって我々はどんどん、理想を追求で きるようになるのです」
> ただ対話の際には、経営陣が社員の話を聞き、 要望や意見を的確に受け止める必要がある。この ため2年ほど前から、役員を対象に「傾聴」のトレー ニングも実施している。 「役職や年齢が上がると、聞くより話す機会のほ うが多くなるので、自分では聞いているつもりで も『聞き下手』になってしまいがち。否定や判断を せず話を聞くことや、効果的な質問を投げかけて 話を引き出す技術を学んでもらっています」
> 一連の取り組みの結果、2022年から2023年ま での1年間で、エンゲージメントスコアは59%へ、 インクルージョンスコアも60%に上昇した。さら に「変革の実感」については52%から67%へと大 きく伸びた。今後も「スピード感を持って走りつつ、 また社員の意見を聞いて改めるべきところは改め ながら取り組みを進める」という。 これらのスコアについて秋田氏は、「カルチャー が着実に変化したことを、後から確認できる遅行 指数のようなもの」だと考えている。
> 2024年版報告書の特徴は、ページ数が前年版 の47ページから123ページへと大幅に増えたこと と、ターゲットを社員と求職者に絞ったことだ。 これらは2023年版の「反省」が起点になってい ると、執行役CHROの真坂晃之氏は話す。 「2023年に報告書を出したのは、人的資本の情報 開示が求められるなか、『規定演技』のように決まっ た情報ではなく、エーザイらしい独自のKPIやメッ セージを出したかったから。そのためには統合報 告書内の数ページでは不十分で、手探りでも人的 資本に特化した報告書を作る必要がありました」
> 「報告書を通読するというより、知り合いのインタ ビューなど興味のある記事から読んでもらい、その なかで制度などについても理解してもらいたかっ た。ボリュームを増やしたのも、読んでもらうきっか けになる記事を増やしたかったからです」と話す。
> 三瓶氏は「ネガティブな数字を出すことは一概 にマイナスとはいえず、当社がコミットすべき課 題をきちんと認識し、解決に取り組んでいるとい う『伸びしろ』を示す面もあります」と話す。さ らに「就活の掲示板などを見ても、企業のネガティ ブな情報を隠せないことは明白です。こちらから 課題を提示し、解決に取り組んでいると説明する ことで、透明性の高い企業だという認識を広めた い」とも述べた。
> 人的資本に特化した報告書の作成 やE-HCIの開発が可能になったのは、 真坂氏が2022年にCHROに就任し てから、人事領域の組織改革に取り組んだおかげ もある。それ以前は、専門家が集まる縦割り組織で、 定型業務の負荷も大きく視座の高い戦略などを考 える余力に乏しかった。 真坂氏は2023年6月に、評価や研修、労務管理 など各セクションから独立した「グローバルHR 戦略企画部」を新設し、戦略立案や情報開示のあ り方など「重要だが優先順位が低かった業務」を 集中させた(36ページ図)。同部にはMRや経営企 画を経験した三瓶氏のほか、データアナリストな ど、他部署の経験者も集めた。
> 石井:大乗仏教の歴史は、成仏できる人の範囲 をどんどん広げていく流れです。「草 そ う 木 も く 国 こ く 土 ど 悉 し っ 皆 か い 成 じょう 仏 ぶ つ 」といって「草も木もみな成仏できる」 から、「私たちは既に仏としてある」へと展開 していく。禅の根底にあるのは、ありのままの 自分を受け入れようという徹底した現実肯定、 自己肯定の姿勢です。
> 石井:禅の最大のイノベーションは生産活動を 修行としたことだと思います。もともと上座部 仏教の戒律では、生産活動は禁止されていまし た。その根本を変え、日常生活すべてが修行だ としたのは、禅の大きな特徴になっています。
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